「Coriolis force」コリオリの力とは?―地球の自転が生み出す“見えない力”

地学

■ はじめに

地球上の風や海流が、まっすぐ進まずに曲がって流れるのはなぜでしょうか?
その背後にあるのが「コリオリの力(Coriolis force)」です。

一見不思議なこの力は、実は「地球が自転していること」によって生まれる見かけの力。
私たちが暮らす世界のさまざまな自然現象の陰で、静かに働いています。


■ コリオリの力の正体

地球はおよそ24時間で1回転しています。
このため、地表の地点ごとに「東向きの速度」が異なります。

赤道付近では約1,670km/hと非常に速く、極に近づくほど遅くなります。
つまり、緯度によって回転速度が違うため、移動する物体には“ずれ”が生じます。
このずれこそが「コリオリの力」です。


■ コリオリの力の向き

地球を北極側から見たとき、地球は反時計回り(西→東)に自転しています。
このため、物体の動きは次のように偏向します。

  • 北半球:右向きに曲がる
  • 南半球:左向きに曲がる

たとえば、赤道付近から北へ移動する空気は、もともと速く東へ進んでいるため、
進行方向(北)に対して右(東)へずれていくのです。


■ どんな現象に関係しているのか?

● 大気の流れ(貿易風・偏西風)

地球の自転によって、赤道付近では東風(貿易風)、中緯度では西風(偏西風)が吹きます。
これは、南北方向に動こうとする空気がコリオリの力で東西に曲げられるためです。

● 台風や低気圧の回転

台風や低気圧が「北半球で反時計回り」「南半球で時計回り」に回転するのもコリオリの力の結果です。
上昇する空気が周囲から流れ込む際、進行方向が横にずれ、渦を生み出します。

● 海流の流れ

海の表面を流れる黒潮やメキシコ湾流などの海流も、この力の影響を強く受けています。
北半球では右に、南半球では左に偏向し、複雑な循環を形づくっています。


■ 日常の水の渦とコリオリの力の関係

「北半球では左回り、南半球では右回りに水が流れる」と聞いたことがあるかもしれません。
たとえば、トイレや流しの水が流れるときの渦の向き――
これはコリオリの力の影響ではありません。

● コリオリの力はとても弱い

確かに、地球の自転が生むコリオリの力は存在します。
しかしその大きさは、家庭のシンクや風呂場のような小さなスケールでは極めて微弱
直径1メートルほどの水槽であれば、その影響は10億分の1以下しかありません。
つまり、ほぼ無視できるほどの小ささです。

● 実際の渦の向きは「初期条件」で決まる

水をためるときの流れ方や排水口の傾き、蛇口の位置など、
ほんのわずかな要因で渦の向きは簡単に変わってしまいます。
そのため、家庭の水の渦は「たまたま右回り」「たまたま左回り」になるのが普通です。

北半球・南半球どちらに住んでいても、家庭の排水口の渦の向きはランダムに決まるのです。

● 科学実験では確認できる

とはいえ、コリオリの力をまったく観測できないわけではありません。
大学や研究機関では、完全に静止した大型水槽を使って実験が行われています。

  • 水槽を数時間放置して完全に静止させる
  • 外からの風や振動を遮断する
  • 栓を抜くと、数分後にゆっくり渦が形成される

このとき、北半球では反時計回り(左回り)、南半球では時計回り(右回り)になります。
ただし、こうした実験は非常に繊細な条件
のもとで初めてコリオリの影響が見えるものです。
日常生活レベルではまず観測できません。


■ まとめ:地球の回転がつくる“世界の流れ”

現象北半球南半球主な影響源
台風・低気圧の回転反時計回り時計回りコリオリの力
海流の偏向右に曲がる左に曲がるコリオリの力
流しの水の渦どちらにもなるどちらにもなる排水口の形や水の流し方

コリオリの力は、地球が自転している証拠のひとつ。
風や海の流れ、天気の循環など、地球規模の現象を形づくっています。
私たちの目には見えないこの力が、気候や自然のバランスを保っているのです。


この記事は2025年10月時点の情報に基づいています。
科学的理解は常に更新されていますので、最新の研究情報にもご注意ください。

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