絵の具は、どこから来るのでしょうか。
文房具店で買うチューブの中身を見ていると、あまり考えることはありません。
でも、その色の正体をたどっていくと、かなり足元の話になります。
石です。
もっと正確に言うと、岩や鉱物です。
人類は、地面に落ちている石を砕いて色にしてきました。
この事実は、知ってしまうと少し世界の見え方が変わります。
絵の具は「削った地球」
鉱物を砕いて粉にし、それを水や油、膠と混ぜたものを
鉱物顔料と呼びます。
つまり絵の具とは、
地球の一部を細かく削って使っているものなのです。
鉱物が色を持つ理由は、含まれる金属元素や結晶構造が
光と反応するためです。
・鉄 → 赤や黄色
・銅 → 青や緑
・コバルト → 深い青
絵の具の色は、地球内部で起きた化学反応の結果とも言えます。
洞窟壁画から現代絵画まで、
人が色を求めた歴史は、そのまま鉱物を探す歴史でもありました。
赤い絵の具になる石|鉄の色
最も古くから使われてきた色のひとつが赤です。
赤鉄鉱(ヘマタイト)
赤鉄鉱は酸化鉄を主成分とし、赤褐色を示します。
洞窟壁画に使われた赤の多くは、この鉱物を砕いたものです。
日本では赭土(しゃど)として知られ、
身近な土の色として長く利用されてきました。
辰砂(しんしゃ)
辰砂は硫化水銀からなる鉱物で、非常に鮮やかな朱色を持ちます。
神社の朱や印章の赤は、この石の色です。
ただし、美しい色の代償として毒性も持っています。
石の色は、必ずしも安全とは限りません。
黄色い絵の具になる石
黄土(オーカー)
黄色の代表格が黄土です。
これは特定の鉱物ではなく、鉄を含む鉱物が風化してできた土の色です。
派手さはありませんが、安定性が高く、
古代から現代まで使われ続けてきました。
雄黄(ゆうおう)
雄黄は硫化ヒ素鉱物で、強烈な黄色を示します。
かつては絵画にも使われましたが、毒性が非常に強く、
現在ではほとんど使用されていません。
青い絵の具になる石
ラピスラズリ
青い絵の具として特別な存在なのがラピスラズリです。
この石から作られる群青は、深く澄んだ青色を持ちます。
主な産地はアフガニスタン。
中世ヨーロッパでは金と同等、あるいはそれ以上の価値がありました。
藍銅鉱(アズライト)
藍銅鉱は炭酸銅鉱物で、やや緑を帯びた青を示します。
ただし時間が経つと、緑色の孔雀石へ変化する性質があります。
緑の絵の具になる石|銅の色
孔雀石(マラカイト)
孔雀石は鮮やかな緑色を持つ炭酸銅鉱物です。
粉砕する粒の大きさによって色合いが変わり、
日本画では粒度を活かした表現が行われてきました。
緑土(グリーンアース)
緑土は、セラドナイトやグラウコナイトを含む天然顔料です。
落ち着いた緑色で、宗教画の下塗りなどに使われてきました。
白と黒の絵の具も、やはり石
白色顔料には、方解石やカオリナイトが使われてきました。
日本画の胡粉も炭酸カルシウムで、鉱物の仲間です。
黒色顔料には、磁鉄鉱やマンガン鉱物、炭素質鉱物が利用されました。
墨も広い意味では、鉱物的性質を持つ黒と言えます。
地学と絵の具はつながっている
鉱物顔料は、
火山活動・熱水活動・風化といった地質学的プロセスの産物です。
どんな色が手に入るかは、その土地の地質で決まります。
そのため、絵画の顔料分析から
産地や制作年代を推定する研究も行われています。
石だと思って見ると、世界が変わる
現在は合成顔料が主流ですが、
日本画や文化財修復では今も鉱物顔料が重視されています。
自然が作った色には、わずかな揺らぎがあります。
その不均一さこそが、人工では再現しきれない魅力です。
その絵の具の材料、石ですよ。
そう思って絵を見ると、
色が少し重たく、少し深く感じられるかもしれません。
注意事項
本記事は、現時点で一般に知られている
地質学・鉱物学・美術史の情報をもとに作成しています。
鉱物の分類や安全性、顔料の取り扱いに関する知見は、
今後の研究や法規制により変更される可能性があります。

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